移住して地域おこし協力隊になって1年半。毎月、町の広報誌で連載してきた野尻の文化や歴史を取材した「のじり聞き書き」の冊子が完成しました!
町の基幹産業であるメロン・マンゴーと畜産の歩み、そこに受け継がれる伝統文化「フロンティア精神」を、地域の方々の視点を通してまとめたものです。小林市内の市役所、図書館、道の駅などにて無料で配布いたします!また、東京の宮崎物産館などでも配布予定です。ぜひご覧ください!本記事では、聞き書き冊子の概要や、聞き書きを通して感じたこと、地域おこし協力隊として思うことなどを紹介します。(PDF版をアップしました!冊子の内容をこちらからもご覧いただけます!)
目次
地域おこし協力隊として何ができるか
移住促進、観光PR、特産品の開発…地域おこしの方法は様々で、答えも一つではないと思います。地域おこし協力隊として、私は何ができるか考えていたとき、学生時代から続けていた「聞き書き」をやろうと思いました。
この地域に暮らしてきた方々の生活を通してみる、文化や歴史。そこに大切なかけがえのないものがあると感じたからです。
地域の魅力を掘り起こして発信することは、外へ向けて地域のPRになりますが、それだけではなく、そこに暮らす方々が自分の地域のことを知り、地域について改めて考えたり、興味を持ったり、好きになるきっかけになったらいいなという気持ちから聞き書きを始めました。
二十歳の若者たちの挑戦が生んだ、特産品メロン
「野尻と言えばメロン!ぜひ取材してほしい」という話を聞き、最初のテーマに選んだメロンの物語。
昭和40年、当時、野尻の主要作物だった原料用の唐芋(サツマイモ)が、デンプン輸入自由化で価格が下がり、農家の生活は苦しくなりました。
「唐芋に代わる何かないか」
そこから始まったメロン栽培。種もなく、食べたこともない中、手探りでの挑戦でした。
そんな中、先陣を切りメロン栽培を始めたのは、当時二十歳の5人の若者たち。後に彼らは「五人の先兵」と呼ばれ、地域の小学校の教材にも登場するまでになりました。
PDF版をアップしました!こちらから冊子をご覧いただけます〜
聞き書きを続ける原動力
聞き書きは、「五人の先兵」のメンバーの方々から始めました。半世紀近く前のことになりますが、昨日のことのように鮮明に、楽しそうに語ってくれたことが印象深いです。(野尻に来たばかりのころだったので、お酒が入り諸県弁炸裂のトークが難易度高かったのは良い思い出です…笑)
その後、市外にいる当時の農業改良センターの指導員や役場の担当者など一同に集まっていただき、当時を知る方々それぞれの視点からお話を伺いました。
「みんなで集まるのは何十年ぶり。集まるきっかけをありがとう」
「当時を思い出して懐かしかった」
「(出来上がった紙面とDVDを)県外にいる息子に送って自慢したよ!」
などと喜んでくれて、こちらこそありがとうございます!とともて嬉しかったです。
掲載後、地域の方々から
「メロンを作っているのは知っていたけど、こういう背景があったのは知らなかった。知れてよかった」
「亡くなった夫も関わっていて、その当時のことを思い出せて嬉しかった」
など直接感想を聞くことができ、やってよかったとホッとしました。
これらの出来事は、この後、聞き書きを続け冊子化までできた原動力となりました。
日本一の宮崎牛を支える畜産の歩み
5年に一度開催される全国和牛能力共進会(別名 和牛のオリンピック)で日本一に二連続で輝いた「宮崎牛」。それを支える和牛農家を始め、酪農、養豚、養鶏と畜産が盛んな野尻。
メロン・マンゴーに続いて聞き書きしたのは「畜産」。
時代の変化と共に変化を遂げる畜産の形態、日本初の和牛多頭飼いで当時の安倍晋太郎農林大臣も視察に訪れた話や、貨物列車で一週間かけて北海道から牛を連れてきた話など、様々なお話を聞きました。
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随所に宿る「フロンティア精神」
今回発行する冊子は2つですが、他にも郷土料理や商工会、開田物語などのテーマで聞き書きをしました。
聞き書きを通して様々な人に出会うことができ、お話を聞く中で一貫して感じたのは「フロンティア精神」。
昭和の始め、水路に乏しく稲作ができず貧しかった暮らしを打破するべく、私財を投げ打ち団結し、隣町から水路を引き開田した、田丸貞重翁と信時金之助翁。彼らの偉業を讃え、合併前の旧野尻町では「フロンティア精神実践の町」と町民憲章に掲げ町づくりをしてきました。
「なせば成る」「共同助力」に支えられた「フロンティア精神」が、現代まで野尻の人たちに深く刻まれ、受け継がれていることを随所で感じました。
合併しても失われない伝統文化
小林市と合併して7年。
小林市に名前は変わりましたが、野尻の方々が歩んできた歴史や、営んできた生活を通して「フロンティア精神」に代表される野尻の伝統文化を受け継ぎ、絶やすことがなければ、「野尻町」の歩みは絶えることなく、続いていくのではないかと思います。
文化の火種を掘り起こし、受け継ぎ、広げていく大切さを改めて感じました。
今回、地域おこし協力隊活動の集大成として「のじりききがき」を形にすることができ、ホッとしています。
取材に協力いただいた方々はもちろん、サポートしてくれた役場の職員の方々、デザインを担当してくれた協力隊OBの伊藤さんなど、みなさんに協力していただき完成することができました。
「のじり聞き書き」を作ったことで、観光客が増えるとか移住者が増えるとか経済が豊かになるとか、大きな変化があるわけではありません。100万回再生を超えた移住促進動画のように、メディアに全国的に知名度が上がるわけでもありません。本当に小さな活動だと思います。
でも、小さくても誰かの心の中で、何かが変わるきっかけになるかもしれない。そんな希望を感じています。
北海道函館出身の86世代。自然の中で食・住・ナリワイを創る暮らし目指して、2015年9月26日から夫婦で東京から宮崎県小林市野尻町へ移住。広告営業、地域情報誌の記者編集、広報などを経て、現在は地域おこし協力隊&聞き書きライターとして活動中。
広報PRの仕事や聞き書き本の制作・ハーブを中心とした畑づくりをしながら、移動式古書カフェ・ゲストハウスオープンへ向けて準備中です。